覇王別姫(はおうべっき)
~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~

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「能楽」と「京劇」 アジア伝統芸能・新境地への挑戦

「覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~」イメージ

日本の伝統芸能「能楽」と中国の伝統芸能「京劇」
どちらもユネスコ無形文化遺産に登録されたアジア伝統芸ながら、
かたや能面をつけ、ゆったりと神秘的な「幽玄」の様相を見せる『静』。
かたや派手な衣装と化粧で、銅鑼が鳴り響く中激しく立ち回る『動』。
その相反する性質をあえて融合させることで、
新たなアジア伝統芸術を創造するプロジェクトです。

平成26年度テアトルフォンテ・アズビル・アワードにて初演を迎えた
夢のコラボレーションが、満を持して世田谷に登場です。

「覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~」舞台写真1 「覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~」舞台写真2 「覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~」舞台写真3
<クリックで画像拡大します>
日本「能楽」×中国「京劇」2つの伝統が融合する舞台をプロの撮影で映像化したい! CAMPFIREでご支援受付中

『覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~』チラシ表

『覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~』チラシ裏

「覇王別姫(はおうべっき)
~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~」

■2017年5月13日(土)
開場 17:30 / 開演 18:00

※全席指定、字幕付き

会場:成城ホール
世田谷区成城6-2-1
[交通アクセス]
小田急線「成城学園前」
徒歩4分

[出演]
項羽:張春祥
虞姫(能):西村高夫
虞姫(京劇):張桂琴

演出:張春祥
主催:新潮劇院
共催:成城ホール(株式会社アクティオ)
後援:中国大使館文化部/世田谷区

[チケット]
一般:4,300円 / 世田谷区民:3,800円
学生:1,500円

[チケット取扱]
■新潮劇院ホームページ
■イープラス
■成城ホール 事務局

満員御礼となりました。ありがとうございます。

悟空倶楽部
悟空倶楽部優待販売
会員:3,500円

能楽師 西村 高夫
能楽師 西村 高夫
観世流シテ方。1976年、銕仙会に入門。
八世観世銕之亟、観世寿夫、山本順之に師事。
1978年 〈土蜘蛛〉のトモで初舞台。
1982年独立.。現在は銕仙会理事として活躍。
世阿弥座などの海外公演にも多数参加。
1991年 清水寛二と「響の会」を結成。


虞姫(能) イメージ
◆ 京劇演目「覇王別姫」について ◆
京劇「覇王別姫」(写真:木村武司/項羽:張春祥、虞姫:張桂琴)
<京劇「覇王別姫」> 京劇「覇王別姫」の剣舞(写真:井田裕明/虞姫:張桂琴)
<京劇「覇王別姫」の剣舞>

「覇王別姫」は、かつての女形の名優
「梅蘭芳」のために創られた
京劇を代表する名演目です。

中華の覇権を争った「項羽と劉邦」の物語より
『四面楚歌(しめんそか)』の故事でも有名な
項羽と后・虞姫の別れの場面を描いたもので
チェン・カイコー監督の映画「さらばわが愛、
覇王別姫」でもモチーフとして用いられ、
一躍有名となりました。

今回の創作コラボレーションはこの演目を
題材として、新しい表現を創作した
内容となります。

明治大学教授 加藤徹先生によるワークショップ
◆  能楽と京劇 伝統芸能の様式について ◆

上演前に日中伝統芸能の様式の違いや共通点・見所などを、
明治大学教授で京劇研究の第一人者である
加藤徹先生にレクチャーしていただきます。

加藤徹
1963年、東京生まれ。
2002年『京劇』でサントリー学芸賞受賞。
主著に「京劇」 「梅蘭芳 世界を虜にした男」「絵でよむ漢文」など

■ホームページ [京劇城]

明治大学教授 加藤徹
覇王別姫(はおうべっき)~能楽と京劇 日中ユネスコ無形文化遺産の融合~ 劇評

 日本で京劇の公演を続けている張春祥主宰の新潮劇院は、日本の伝統芸能との共演にも意欲的で、能と京劇のコラボレーション「覇王別姫」を上演した。幽玄美を追求する能と、色彩豊かで華やかな京劇というのはなかなか思いつかない組み合わせである。様式、テンポなどが対照的で、同じ舞台に立つとどうなるのかという不安もあったが、実際見てみると、異質であるがゆえの奥行きと深みが出て、成功を収めたと言えるだろう。

 二つの伝統芸能は確かに異なっているが、考えてみると日本の能には中国に由来する人物をシテ(主役)とする「唐物」というジャンルがあり、数多くの曲が伝えられている。主なところでは「楊貴妃」「天鼓」「邯鄲」「菊慈童」「昭君」「猩々」「西王母」といった曲があり、日本人は古くから中国の伝説、歴史を好んで取り上げていた。

 項羽と虞姫が主人公の「覇王別姫」は映画にもなっており、日本人には最もなじみ深い京劇であろう。では、能にこの話はないのかというと、実はちゃんと存在している。世阿弥作と伝えられる「項羽」がそれである。しかしながらこれは今日めったに上演されず、筆者も見たことがない。そのあらすじは、川辺に現れた老船頭が、向こう岸まで渡した男に美人草を船賃として所望する。その訳を聞くと、昔虞妃の遺骸を埋めた塚に生えたのがこの草で、自分は項羽の亡霊だと言って消える。項羽は男の夢に現れ、虞妃とともに奮戦のありさまを見せる。

 能のシテは亡霊で、過去の戦いと死後の責め苦を訴えてワキの旅僧に回向を頼むという独特の形式がある。観世流シテ方の西村高夫は、シテを項羽ではなく虞姫にして「女能」として謡本を作り、後ジテに当たる京劇と重ね合わせることによって、亡霊の回想と二重写しで悲劇を表現した。観客はいわばワキの旅僧の視点で舞台を眺めることにより、時空を超えたスケールの中でギリシャ悲劇にも通じるカタルシス(浄化)を得るのである。

 今回の音楽は能、京劇ともに録音だったが、次回は生演奏で、できれば橋掛かりのある能楽堂などで上演できれば一層面白い演出もできるだろう。再演を期待したい。

演劇評論家 石山俊彦

「覇王別姫」という演目がつないだ縁
見慣れぬ共演に戸惑いながらも楽しめた

 「覇王別姫」と聞いてピンと来なくとも、司馬遼太郎の小説『項羽と劉邦』や四面楚歌、虞美人草といった単語を出せば、ほとんどの日本人が相槌を打つだろう。項羽と虞姫(虞美人)は、それほどまでに日本社会に浸透した存在であり、例えば京劇を初めて見る人にとっても「覇王別姫」は親しみやすい演目といえよう。

 能にも「項羽」という虞美人草を主題にした演目があり、そこに項羽と虞姫の亡霊が登場する。600年以上もの昔から続く伝統芸能にも取り上げられる「覇王別姫」は悲哀に満ちたストーリーであり、能の舞台にもふさわしい、日本人好みの演目だ。

 この両者の共演はどんな風になるのだろう・・・。2017年5月13日、新潮劇院公演『覇王別姫』。その幕開けを待つ観客たちから、通常の京劇の公演とは違った期待感が伝わってきた。

 いざ緞帳が上がった時、舞台にいたのは能面をつけた能虞姫ひとり。この能虞姫は虞姫の成仏できない魂であるだけでなく、舞台上では狂言回し的に、項羽と虞姫が死に至った顛末を語る。これは能の「夢幻能」という回想録的な様式だ。

 壇上にてその虞姫の「魂」を演じる、能楽師・西村高夫さんの張りのある肉声が会場に響き渡り、会場全体が能の世界に支配されたようだった。

 そう感じた時、それに導かれるかのように京劇の項羽と虞姫が登場。本来の京劇であれば大拍手で迎えられるべきところだが、今回の演目ではそれがなかった。歌舞伎と違って能には拍手をしたり、「掛け声」を入れる習慣はない。観客は終始、静かに見守るだけだ。

 賑やかな京劇の音楽が鳴り始め、能虞姫が舞台からいない時でも観客は静かだった。拍手したり、「好」(ハオ!)という掛け声が入りそうなところでも、それが出ない。

 序盤から中盤にかけては、西村高夫さんが演じる能虞姫の存在感が強すぎて、観客が「京劇モード」へと転換するまで、かなり時間がかかった印象だ。これは京劇と能が共演するという稀有な舞台に対し、観客が「慣れていない」からで、ほとんどの方が新鮮な戸惑いを抱きつつも楽しんでいた様子だった。

 事前の触れ込み通り、京劇の「動」に対し、能の「静」という対比が面白い部分ではあったが、後者の「静」の持つ独特の緊張感は「動」である京劇を呑み込み兼ねないほどの「魔力」を感じた。

 一方で、新潮劇院団長の張春祥さんは力強く、悲哀に満ちた項羽を演じきった。 「力は山を抜き、気は世を覆う(中略)虞や虞や、汝を如何せん」、いわゆる「垓下の歌」は項羽の愛と無念さを表すもの。春祥さんの少し高めの声が、情感をともなって響いた。  

 ようやく大拍手とともに元気な「好!」の掛け声が沸き起こったのは、終盤に虞姫が剣舞を行なうシーン。剣舞は虞姫を演じた張桂琴さんの十八番で、以前に明治大学で行われた京劇イベントにて「覇王別姫の剣舞」を披露されたのを見て魅了されたのを思い出した。今回は本来の形である「覇王別姫」の中での剣舞で観客を京劇の世界へ引き込んだ。虞姫の自害後、能虞姫が現れ、2人は永遠に終わることのない冥界を歩み続ける・・・というところで閉幕。能が持つ「静の魔力」に、いささか圧倒されながらも、京劇による「動の魅力」を存分に堪能することができた。

 在日の京劇団として、20年以上も活動を続けてきた新潮劇院だからこそ実現できた、日中伝統芸能の共演。この新たな試みを目の当たりにできたことは僥倖だった。また、コラボを引き受けられた能楽師・西村高夫さんの英断にも敬意を表したい。

 京劇と日本の伝統芸能の組み合わせとしては、どちらかといえば歌舞伎の方がイメージが近く、通じる部分もあるように思う。「覇王別姫」という演目がつないだ縁でもあるが、能とのコラボはまさに意表を突かれた形。両者の共演ならではの面白みが随所に感じられた。伝統を大切にしながらも、「新潮」の名にふさわしい新潮劇院の活動、今後も注視していきたい。

歴史文筆家 上永哲矢