新潮劇院について
新潮劇院は東京都世田谷区を拠点として活動している在日京劇団です。中国の劇団で活躍していた在日中国人京劇俳優と日本人京劇俳優とで構成され、京劇普及活動を通して日本での外国文化振興と日中友好の架け橋を担っています。
設立までの経緯
祖父の代より三代続く京劇一家に生まれ、自身も北京京劇院に13年間所属した張春祥は1989年に来日し、日本での芸術活動を開始しました。しかしながら、当時、在日の京劇俳優が京劇を演じられる場面は「イベントでの出し物」が殆どで、派手な技やアクロバットだけを見せる「京劇ショー」ばかり。ストーリーもなく、衣装や様式も適当、唱(うた)や念(セリフ)という京劇の大事な要素もない・・・。
この状況を憂い「仲間たちが伝統京劇を演じられる場所を創り」「日本人にきちんと伝統京劇を伝え」、自身が愛してやまない京劇を皆で楽しんでもらうために、1996年1月・東京都世田谷を拠点に京劇団・新潮劇院を創立。有志の在日京劇俳優と京劇伴奏者、そして日本人俳優たちによる公演は、従来の来日京劇団による公演よりも遥かに低価格で本格的な伝統京劇を提供し、大変な好評を博しました。
主宰・張春祥は日本を拠点とする京劇団としての存在意義の確立、そして異国の伝統団体が日本で普及活動を継続していくために3つの活動方針を柱として立てました。
活動方針
(1)伝統京劇の上演と普及活動
設立までの経緯にあるとおり伝統を守ることを信条とし、ただのショーではなく中国を代表する伝統芸能としての様式美を保った舞台を上演しています。京劇を伝統芸能として上演できる国内唯一の京劇団を自負しております。
日本人向けの演出
在日京劇団としての特色を生かし、日本語セリフの導入・日本人にわかりやすい演出・日本人俳優による上演前の京劇レクチャーなどを積極的に取り入れた舞台を上演しています。伝統劇な京劇様式を守りながら上演できるのも、長らく日本を拠点に活動している新潮劇院ならではです。
普段であれば敷居が高く感じられる外国文化をスマートに楽しむことができ、従来の京劇ファンはもちろんのこと、初めて京劇を観劇される方や子供たちまで、幅広い年代・客層にご満足いただいています。
骨子老戯(グーズーラオシー:骨まで染みた古い戯曲)
日本人に馴染みがなく来日京劇団が上演しないような演目から、本場中国でもほぼ上演されることがなくなった古典演目・小演目に至るまで幅広い演目を積極的に上演。派手で豪華な演目ばかりでなく、地味ながら心に染みる人情話、コミカルかつ前衛的なコメディなど、京劇の持つ幅広さを日本の皆様に紹介しています。
京劇界の重鎮でありながら、世に出ることを好まなかった張春祥の父・張寶華から口承で受け継いだ演目も少なくありません。
京劇講座・ワークショップ
異国の文化で普段はあまり馴染みがなく、複雑な様式を持つ京劇をより楽しみ、親しんでもらえるように座学講座やワークショップを行っています。
特に日本の京劇研究第一人者たちによる講座や、プロの京劇俳優指導と本物の道具類によるメイク・衣装・立ち回り体験は本場中国でも体験することができない大変貴重な機会となっており、日本人はもちろん在日中国人・留学生たちにも人気です。
青少年・養護施設への京劇振興
日本への成果還元と将来に向けての国際平和に貢献すべく、近年は子供たちや福祉施設・養護施設への文化振興に力を入れております。舞台の楽しさを通じて異文化への興味を高めたり、自信を与えて積極性を高める活動を推進しております。
この実績は高く評価され、2015年度からの文化庁「巡回公演事業 | 文化芸術による子供の育成事業」をはじめとする様々な教育・福祉関連事業採択に繋がっています。
(2)京劇の創作活動
「新潮」の劇団名が示すとおり、伝統を守りながらも新しい潮流を生み出すべく、先進的な芸術表現にも取り組んでいます。
新作京劇の上演
新たな脚本の執筆、古典の新解釈・新演出、京劇への他芸術要素の導入などにより京劇の更なる発展性を模索します。
日本の芸術家とのコラボレーション
日本を拠点とする優位性を生かし日本の芸術団体・伝統芸能団体・アーティストとのコラボレーションを積極的に行っております。その実験性・将来性は高く評価され、数々の助成事業として採択されています。(独立行政法人日本芸術文化振興会、私的録音補償金管理協会 sarah、世田谷区・アズビルアワード、他)
(3)日本人京劇俳優の育成
将来に渡って長く活動を継続し、日本に京劇を根付かせていくために、団体設立当初から日本人京劇俳優の育成を行っております。日本人俳優も公演の重要なアンサンブルを務めることで、在日団体でありながら予算を抑えて大規模公演を実施することが可能となっています。
京劇を学んだメンバーの中には、そのスキル・経験を武器にミュージカル・映画・ドラマなど別の分野に活動の場を移して活躍している俳優もおり、他ジャンルへの貢献にも繋がっています。
京劇教室
2002年から一般向けに京劇教室を開講し、楽しみながら立ち回りや演目の習得を目指す場を設けています。発表会も行っており、楽師「洪剛」が主宰する京劇音楽教室生徒との合同発表会は、演技・演奏ともに日本人による本格的京劇として話題にもなりました。
現在、劇団四季で活躍する塚田卓也や、ミュージカル舞台で活躍する茶谷健太など、舞台芸術の世界への登竜門ともなっています。
2016年からはアクロバット・唱・女性の様式など、内容を細分化した京劇教室も開講しています。
研修制度
2009年から中国最高指導機関である中国戯曲学院大学で講師を務めていた京劇俳優・張桂琴を指導者として迎え、本格的な研修制度を開始しました。本場のプロ志望の学生たちと比べても遜色ない充実の指導内容で、舞台に主演として立てる日本人京劇俳優の育成に尽力しています。
世田谷こども京劇団
2014年に張春祥が指導した小学生の大島陸が中国少年伝統芸能大会「小梅花」にて日本人初となる「金花賞」受賞をはじめ「少児戯曲歓楽季(子供の伝統劇大会)」「天津和平杯」といった数々のコンクールで入賞を果たし、現地の京劇愛好家を沸かせました。
これを契機に、子供たちが本格的に京劇に挑戦できる体制を整えるべく、2017年から「世田谷こども京劇団」を発足。世田谷地域に根ざしながら青少年への京劇振興を行い、後進育成をしています。